ある作品を、別の演奏形態で演奏するために編曲したり、時間的理由でカットする場合は権利者に対し「編曲許諾申請」を行わなければなりません。
著作権法第27条には、「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。」と規定されています。著作者=権利者ですので、音楽の場合は作曲者に対して申請を行うことになります。
さて先日も、自作「A New Arrival 〜新しき人へ」をエレクトーン・コンクールで演奏したいとのことで許諾申請がありました。
編曲許諾で自作を再発見!
以前にもエレクトーン演奏に伴う申請や他の編曲申請を頂いてきましたが、その度に「驚き!」がありました。
【え!この曲で!・・・ それ、やるの!?】
ネガティブな意味ではありません。
逆に、自分が作曲した時点ではそれと気付いていない自作の側面をいつも気付かされるのです。
「A New Arrival 〜新しき人へ」 は、2012年に書いた吹奏楽のためのオリジナル作品です。
冒頭のファンファーレ、若者への讃歌として書いたおおらかな第1主題、幾つかのエピソードを経て、中間部ではサックス・セクションに始まる軽いジャズ・ワルツ、主要部が再現してファンファーレで幕を下す。構成を簡単に述べるとこうなります。短調(マイナー)の部分がほとんどなく、印象的には爽やか系の親しみやすい作品です。
申請をいただいたのはまだお若い方でした。なるほど、この曲ってポップなんだ。ジャズ系のワルツもエレクトーンには合いそうだな。etc.と再認識。
また、今度は同曲を中学校のマーチングバンドでお使いになりたいと申請がありました。
マーチング!
全く考えてもみませんでした。
でも言われてみると「うーん、合うかもしれない。」と思うのです。
主要主題である第1主題のテンポは♩=132、パレーディングには少し速すぎますがマーチングには適切なテンポです。オープニング的なファンファーレもあるな・・・。
再認識です!
「夢燃ゆる、紅き空に」をマーチングで!!
昨年の冬のことでした。
自作「夢燃ゆる、紅き空に」をマーチングで使いたいという申請がありました。
正直言って、これは本当に驚きました。
「夢燃ゆる、紅き空に」は、戦国武将 真田幸村を描いた作品で、演奏時間約16分を要する交響詩的作品だったからです。
やや長くなりますが、曲目解説をご覧ください。
この曲は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけて活躍した戦国武将、真田 幸村(本名は信繁)の夢と情熱を描いた作品です。
(中略)
敵味方の関係なく彼が慕われるのは、怒涛の宿命に対峙しながらも、常に義(正義)の心を失わなかったからだと言われています。武士の誇りを身を持って体現した幸村は、今も日本人の心の中に生き続けています。
曲は、日本刀の鋭い煌きのようなイントロから、ホルンを中心とした中音域楽器で奏されるドラマチックな宿命のモチーフで開始されます。続くハ短調12/8拍子のテーマは、運命に翻弄されながらも勇敢に戦い続けた幸村をあらわしたテーマです。
経過部を経て、金管群の勇壮なテーマと打楽器群とのコンビネーションで演奏されるニ短調4/4拍子 Presto ma non troppoは、幸村軍の進軍の様子を表しています。続く経過部であらわれるフレンチホルン・ソロは、やや音域が高いのですがぜひ挑戦していただきたい部分です。
Andanteからの中間部は、真田家の愛と幸村自身の夢を描いた部分です。
この後続く戦闘部と対峙する静謐さ、穏やかさ、ひと時の平和や幸福への感謝、見果てぬ夢・・・。 終結部では、宿命のモチーフが祈りのように聞こえてきます。
平和な時もひと時、遠くから聞こえるピアノとティンパニーの3連符連打が戦いの時を予感させます。法螺貝により合戦準備が令されると、曲は騎馬戦を表すニ短調6/8拍子Allegro con brioに突入、進軍のテーマをはさみながら壮大に戦闘が展開されますが、幸村のテーマや宿命のモチーフが聞こえてきます。愛のテーマの回想と幸村のテーマを経て、曲はエンディングへと続きます。(中略)
なおこの作品は、2011年51月、茨城県佐野市文化会館において初演、6月真田家の本拠地、長野県上田市の上田城に隣接する上田市文化会館にて再演されました。
真田幸村とマーチング!?
自作に固定観念のある私は??な状態になりました。
しかし、じっくり考えてみると、・・・再認識です!
1. ご要望のあったバンドは大編成のマーチングバンド
→ 壮大でドラマティックな表現が可能
2. 戦闘シーンを描いた部分がある
→ 多人数による動的表現が可能
3. 緩徐(緩やかなゆったりした)部分がある
→ 静的表現や音楽的表現力を披露できる
4. 戦闘部分のテンポはプレスト(♩=172)
→ 高度なドリルや演技を発揮できる
5. エンディングが派手
→ スケールの大きい終結感を得られる
6. パーカッションが活躍する
→ ドラムコー(Drum Corps)に適する
再認識でした!
市立柏高等学校と「イージス」
今年3月、市立柏高等学校吹奏楽部の石田修一先生からお電話を頂きました。
「河邊さん、今年はイージスでいこうと思います。ぜひ、大阪城ホールへ行きたいと思っています!」
実は私の予想もしない選曲をされ、昨年度のマーチング・コンテストで「夢燃ゆる」を使っていただいたのは石田修一先生と市立柏高等学校吹奏楽部の皆さんでした。
メインとしてお使い頂いた「イージス aegis」は、祝祭的なファンファーレとして描いた作品でこれはマーチング向きだと私も以前から思っていました。
その後、今年も中間部に再度「夢燃ゆる」を使うので許諾してもらいたい旨のご連絡がありました。イージスには緩やかな場面がないために、そのような構成にされたのだと納得しました。
そして2014年10月5日(日)、千葉ポートアリーナ(千葉市)で開催された第20回東関東マーチング・コンテスト
市立柏高等学校の演技タイトルは
『The Shield of ATHENA"AEGIS"』
・祝祭ファンファーレ「イージス」(河邊一彦 作曲/北村俊彦 編曲)
・夢燃ゆる、紅き空に(河邊一彦 作曲)
結果は見事金賞。
東関東ブロック代表として11月23日(日)に大阪城ホールで行われる「第27回全日本マーチングコンテスト」に出場されることになりました。
おめでとうございます!!
柔軟に音楽に向かう
以前、現JMA日本マーチングバンド協会の理事長、田中久仁明先生とお話しした際、マーチングにおける音楽の重要性についてご所見を伺ったことがあります。
コンクールなどではどうしても、パレーディングやドリルフォーメーションのシンクロ、諸動作の切れなど、身体的表現や団体としての統一性が評価されるがために、ややもすると音楽的内容が重視されない恐れがある。しかしマーチング・バンドの本質は、音楽とバンドの動きの相乗効果が生み出す高い音楽性であると。
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マーチングもコンサートも生きている人間が行う行為、つまり生き物です。
そして演奏者、聴衆、演奏される作品もまた刻々変化するのだと思います。
作曲家は、演奏者・聴衆や諸条件によって様々な変化や評価を受ける作品を作る立場です。
私は編曲許諾を通して、演奏される方や聴いて下さる方々が更に豊かなイメージを描いていただけるよう、いつも捉われない心で自然に柔軟に作曲していくことが必要なのだと教えて頂いたような気がしています。
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east (金曜日, 25 3月 2016 11:45)
JMA理事長田中久仁氏曰く「マーチングの本質は、音楽とバンドの動きの相乗効果が生み出す高い音楽性に有る」そうです。
ホ〜ッそうですか、、、その割には【演奏の基礎】が蔑ろにされてますね〜。
米国のマーチングの【悪影響】か【割れた音の金管(例.tp.)】が木管に覆いかぶさって音を消してしまったり、アリーナの音響=acousticには速過ぎるテンポで、前の音が消える前に音を出して【追突
】して仕舞い、響が靄がかかって細部が消える演奏が殆どでは無いですか。これで【演奏】が大事とはよく言う!
私には、今のマーチングは【騒音】にしか聴こえない。
だから一般の音楽愛好家からバカにされているのでしょう。
マーチング関係者は、もし【マーチング】と云うものが【演奏芸術】と認められたいなら、ここを良く反省する必要が
有りますね。
【蛸壺の中で、良い悪いと言っていても無価値】ですよ。