20世紀後半の日本アニメ音楽の中でも高いステイタスを誇る「新世紀エヴァンゲリオン」。
そのエヴァ・サウンドが進化する中、21世紀に入り新たな名作が誕生しました。
『交響詩篇エウレカセブン』Psalms of Planets Eureka seveNです。
本作は2005年-2006年に放送されたSFアニメーションで、2009年には映画版の「交響詩編エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい」も公開されています。
多彩な楽曲群と佐藤直己の世界
このアニメには、ヒップ・ホップやラップを含む非常に多彩な楽曲が選曲されています。
エヴァのサントラがほとんど鷺巣詩郎氏中心で制作されているのとは異なり、エウレカセブンでは多くのアーティストが参加、楽曲を提供し「ポップ・カルチャー的音楽世界」が形成されています。
ところで、私が最初にエウレカに興味を持ったのはYouTubeで偶然に聞いたある曲がきっかけでした。
その曲は、セカンド・サマー・オブ・ラブ 。
圧倒されました!
これがアニメのサントラだろうか?
誰が書いたんだろう!?
それは、木村拓哉さん主演のドラマ〈Good Luck〉(2003)で注目を浴びだしておおよそ2年後、当時33才の新進作曲家、佐藤直己さんの手になるスコアでした。
このブログでは、エウレカセブンのサントラの中から、佐藤直己さんが担当されたオーケストラによるサウンド・トラックについて書いてみたいと思います。
セカンド・サマー・オブ・ラブ
〈限りなく親密で、平安な息使い〉
〈脆くて壊れやすい、大切な何かを守り通したいという、心からの祈りと強い意志・・・〉
無駄なものが一切なく「美しいものは単純である」という素晴らしい見本だと思います。
調和する世界
TVアニメは、全50話。
私はまだ全てを見ておりませんが、先に楽しみがあるということは良いことかなと思っています。
テレビ版のサントラは2枚出ていますが、残念ながら全ての楽曲がクレジットされてはいません。
新世紀エヴァンゲリオンが、不調和な世界と人間の持つ脆弱さを描いていたのに対し、エウレカセブンでは主人公レントンとエウレカの愛を通じ「調和する世界観」が描かれています。まっすぐにポジティブ!
佐藤さんの名曲ぞろいのスコアから何曲か紹介させて頂きます。
タイプ・ジ・エンド
前衛的でエフェクティブな導入部から、プログレッシブ・ロック、サウンドコラージュ、ボイスエフェクトなどが、一気に襲いかかってきます。
「その時代の一番新しくて、一番カッコいい音楽を創りたい」
佐藤さんのそんな言葉通りの曲ですね。
世界のただ中で〜記憶の中の海
クラリネットで歌いだされる美しい合唱曲のような前半部。サスフォーと呼ばれる解決保留和音が美しい後半部。
当たり前のことですが、クラシックの機能和声学をしっかりと学んだ作曲家ならではの和声書法や転調手法でしっかりと作曲されています。
星に願いを
最終話のエンド・タイトルです。
言葉にすると嘘になりそうでいやなのですが、只々美しい「歌」だと思います!
佐藤さんの他のバラード作品にも多く認められますが、この曲でも、バス声部と内声部がとても美しい進行をしています。
ポケットに虹がいっぱい
映画「エウレカセブン ポケットに虹がいっぱい」は、アニメ版とは異なるストーリーに基づき制作されています。
そのサントラCD、ディク1に収録された作品を3曲ご紹介します。
TVアニメ版と同じく極めて多彩でありながら、質の高い音楽が、巧みなオーケストレーションで次々と展開されています。佐藤さんの初期の代表作といっても過言ではない作品だと思います。
1.トロイメライ
「夢」とういう題名のオープニング曲。次曲「この星の花」と共に、映画全編に使用される主要な主題を含む楽曲です。
エヴァとは異なるこの映画のコンセプト「完全調和」を感じさせる優しさに溢れた作品になっています。2拍子系の拍子とテンポが「ゆりかご」のようなくつろいだ揺らぎを作っています。
2.この星の花
オーボエが、ノスタルジックでやや感傷的な歌を
歌いだすと、転調してフルートやクラリネットがストリングスのバックに乗ってそれを引き継ぎます。
素朴で単純なメロディが、巧みな転調の効果によって深く印象付けられていきます。
7.聖者誕生
ときめきを感じさせる印象的な前奏に続いて、「1.トロイメライ」がアレグロ・ヴィヴァーチェのテンポで飛翔するかのごとくに響き渡ります。
佐藤さんの壮大なオーケストレーションが聴きどころです。
余談ですが、1.トロイメライでクラリネットを演奏されているのは十亀正司さんです。
以前お会いして「レコーディングされたのですね。」とお話ししたことがありました。
また別作ですが、スタジオジブリのアニメ「千と千尋の神隠し」には、古部 賢一さんがオーボエで参加されています。以前コンサートでご一緒した際、嬉しそうに話していらっしゃったのが印象に残っています。
さて、TV版と映画版から数曲ご紹介しましたが、バトル・シーン等にも斬新な曲がたくさんあります。
ぜひお聴きになってみて下さい。
永遠のゼロにつながる音世界
交響詩編 エウレカセブンから、昨年封切られた映画「永遠の0」までの10年間、佐藤さんは
多くの作品を手がけられてこられました。
映画とTVドラマで50作品にも及びその創作は、並大抵の努力では成し遂げられないでしょう。
永遠の0では、「音楽で泣かせるというのではなく、音楽はあまり語らないように完全に引こう」と監督に言われました。「ALWAYS三丁目の夕日」のようなメロディアスな曲を想像していた方には、「名作には名曲がつきものだから、これじゃダメだ」と言われましたが、最終的にはみなさんに納得していただけて、嬉しかったですね。
また以前ブログで書きました「ハゲタカ」については、「またひとつ、人に胸を張って自慢できる作品に関わることが出来たのがとても嬉しい。プロデューサーをはじめ。スタッフ・キャストの皆様、本当にありがとうございました。またお仕事ください。」と述べられています。
制作サイドとのコミュニケーションが不可欠な上に、スケジュール管理が厳しく、また、作品の手直し等のレスポンスの速さも問われる映像音楽業界で、これだけのクオリティの作品を書き続けなければならない困難さは想像を絶します。
才能と努力なくしては無理でしょう。
しかしエウレカセブンの音楽の世界は、10年後の今を予測させる素材を、私たちに明示していたと私は思っています。
JASRAのホームページに、佐藤さん最新のインタビュー記事が掲載されています。
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