作家 司馬遼太郎さんのライフワーク『街道をゆく』シリーズは、私の愛読書の一つです。
その中で取り上げられた地方や土地に仕事で出掛ける際には必ず文庫版を持って行きます。その土地の歴史や文化、地理や人物について現地の空気に触れながら知識を深めたり、考えさせられたりすることはとても楽しいことです。
また、司馬さん独特の語り口も大きな魅力の一つです。
その『街道をゆく』第41巻にあたる「北のまほろば」では、青森県の津軽地方と下北地方を訪れた旅について書かれています。
その下北地方の中心地「むつ市」に、私は約3年ほど暮らしたことがあります。
仕事で転勤となり神奈川から転居しましたが、九州育ちの私や家族にとって北国での生活は初めての経験ばかりでした。
8月下旬になると吹き出す涼しげな風とともにあっという間に夏は終わり
年末には根雪になることの少ない雪が でも必ず降り
天気予報は晴れマーク でもいつも雪は降っており
マイナス20度近くの気温を体感したり
深々と雪降る夜の静寂の深さや
瓦屋根のない家屋に反射する月明かりで昼間のように明るい月夜があったり
除雪(雪かき)の苦労を知り
安比高原へのスキー旅行途上、ホワイトアウトに遭遇し死ぬかと思い
雪道のスリップで対向車に接触したり・・・・・
などなど たくさんの想い出ができました。
北への憧れ
さて、「北のまほろば」で司馬さんは「まほろば」という語句について次のように書かれています。
「私は、まほろばとはまろやかな盆地で、まわりが山波にかこまれ、物成りがよく気持ちのいい野、として理解したい。むろん、そこに沢山に人が住み、穀物がゆたかに稔っていなければならないが。」
司馬さんによると縄文時代以降この地は、豊かな実りのある栄えた土地だったとおっしゃっています。
その例として、現在青森市にある三内丸山遺跡や十三湖の古代遺跡について述べられています。
また『街道をゆく』第3巻「陸奥の道、肥薩の道」では、司馬さんはこの地に対するロマンティックな想いを冒頭に書かれています。
九州の南国 宮崎生まれの私も、司馬さんと同じ様に「奥州以北の地」東北地方に憧れる気持ちをずっと持ってきました。日本列島の面白みは、南北や東西、土地々がそれぞれの魅力を持っていることです。
その中でも、温暖な宮崎生まれの私は北国に対する興味と親和な気持ちをいつも持っていたと思います。「北への憧れ」といって良いと思います。
東北の森をめぐる物語
2013年2月青森市を訪れた私は、青森港沿いにある「アスパム」という観光物産館を訪れました。朝一だったためまだ来訪者も少なく、ふらりと入った「青い森ホール」で青森県の観光を紹介した360度パノラマ映画を貸切で観ました。
世界遺産に指定された白神山地の映像が映し出された時、ふっと一つの物語が私の頭をよぎりました。それが交響組曲「River」作曲のきっかけとなります。
本年7月に発売されたDVD「河邊一彦 作品集」から、曲目解説を引用させて頂きます。
小説家司馬遼太郎さんはその著作の中で、日本の河川について 「我先にと急いで滝のように流れ下る」とおっしゃっています。
まさに狭い国土の中を「滝 」のように日本の川は流れています。
そのほとんどが、私たち日本人の生活と密接な関係を持っている日本の川は
稲作に必要な豊かな水や生活水を提供する反面、氾濫を起こし、人々生活を苦しめもします。
しかし、源流から河口に至る自然、峡谷や山里など日本ならで美しい景観を作り出し、川なくして日本の自然美はないといっても過言でないと思います。
九州内陸部育ちの私も、子供の頃から野や川で遊びその大自然中で育ってきました。
川は私にとっていつも大事な友人ような存在でした。
大人になって川原遊びや水泳もしなくなりましたが、川はいつもそにあり常に親しい存在でした。
交響組曲「River」はその様な「川」に対する私リスペクトから生まれました。
東北地方のある山深いブナ森に流れる川を舞台に、森に住む狩猟部落青年と山里に住む少女との恋を中心にして、矛盾や宿命といった不合理に屈しない人間の姿を描こうとした作品です。
組曲は、「夏から春」までの季節(四季)を設定した4曲から構成されており、
それぞれが、 また全体として一つ叙事的な物語を語っていきます。
第1曲 夏 邂逅の森
第2曲 秋 まほろば
第3曲 冬 激 流
第4曲 春 久遠の川
邂逅の森から (1)
第1曲「邂逅の森」の前半部です。
主要な「森」「川」そして「青年」のテーマ
をお聴き下さい。
交響組曲「River」は、2013-2014年にかけて第1曲と第3曲を作曲しました。
現時点では、まだ未完成の作品となります。
(この稿続く)
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