春を告げる風「東風」
菅原道真(すがわら みちざね)の和歌
「東風吹かば にほいおこせよ 梅の花
あるじなしとて 春な忘れそ」
の句で日本人には馴染みの深い『東風(こち)』
元々は、中国において春になると東から吹いてくる風のことで、春の訪れを告げる風と言われています。
移ろう季節に寄せて
日本の四季の移り変わりは
日本人の生活はもとより
その思考や感性にも大きく影響しています。
古の時代から伝わる「諸行無常」の考え方は
四季の移ろいから培われてきたものに違いありません。
人間も大自然の一部として
精神や肉体、そして生活も移り変わっていく。
常に同体はなく全てが移ろっていく。
「移ろう」とは、「移る」に継続の助動詞「ふ」の付いた
「うつらふ」の転化系動詞 だそうです。
意味としては
① 時の経過とともに物の状態が変わってゆくこと。衰えてゆくこと。
② 場所が変わること、移動すること。
③ 色が変わってゆくこと、あせること。
④ 花が散ること。
⑤ 色や香りがしみつくこと、そまること。
⑥ 心変わりをすること。
などとされています。
人間の有様そのものです。
しかし晩冬から初春にかけては
単に衰えていく移ろいではなく、
春や夏など生命の躍動感溢れる季節に向かう
プラスの移ろい感、変化があります。
桜が美しい花を咲かせるためには
寒気の中を耐え、蕾をじっと閉ざし続けることが大事なのだそうです。
そんな思いで作曲を進めました。
東風(こち) The Spring Wind
「東風」は
梅の花が香り高く咲き出す
日本の晩冬から初春の頃を題材とし
未だ冬枯れの野を吹く冷たい風
穏やかな日差しの中で囀りだす小鳥たち
ある日突然吹き荒れる春一番の風
などが描かれています。
(作曲中のある日関東に春一番の吹いた日には
実際に外に出て強烈な風に吹かれてきました。)
一陣の風が吹き抜ける
そんな作品を目指しました。